連載・鴉天狗
鴉天狗として、今日もお山を歩いています。その3 戸隠山編
研究員・大原徹インタビュー
大山流域研究所研究員の小川彩です。大山の麓で生まれ育った同研究員・大原徹が、鴉天狗から大天狗への構えを持つべく歩み続ける軌跡、その3は長野県と新潟県に跨る戸隠山です。

大先達のおふたり。市居清善さん(左)と植平修さん(右)。以下写真すべて大原徹(MAP除く)。
ふたりの大先達に同行し戸隠山へ
今回のお山「戸隠連峰」へ行くきっかけは、僕が背中を追いかける先達として、一番信頼しているおふたり、伝統空手「糸東流(しゅとうりゅう)」師範代も務める猛者(もさ)・市居清善さんと、お山に登拝し続けている植平修さんからのお声がけをいただいたんです。
奈良県吉野の大峯山奥駈(おおみねさんおくがけ)修行の先達を引退後、日本に30座近くあるといわれる修験の山々を、おふたりで順に登拝しているのですが、途中から僕も可能な限り同行させていただいています。
今回の戸隠への行はおふたりにとって16座目。戸隠山って、妙高戸隠連山国立公園の中にあるのですが、周囲には北に向かって飯縄山(いいづなやま)、黒姫山、妙高山、火打山、焼山という美しい山々が連なっています。長野側から戸隠神社へと向かうと、麓の高原は田園風景が広がってのどかなんですが、山に登ると対照的で、フォッサマグナから火山活動で隆起してできた地形で切り立っているんです。行場として有名なのが「蟻の戸渡」って呼ばれる、幅30センチほどのナイフリッジ(ナイフの刃のように切り立った尾根部、冒頭写真参照)があったり。生命を落とす危険もある行場なんです。

フォッサマグナとはラテン語で「大きな溝」の意。ユーラシア大陸から離れた日本列島の陸塊がプレートの影響でふたつに折れたところが海になり、堆積物がたまり、火山活動で隆起して富士山から焼山まで連なる火山帯ができた。戸隠山もフォッサマグナの火山帯の一部で、火山列島の営みが凝縮したような「凝灰角礫岩」が見られる。

今回も白装束に白足袋、法螺貝を携えてお山を歩かせていただいた大原徹。

戸隠山。頂へと向かう尾根の岩場を踏み締め、見渡すことで「観える」光がある。
海へ降りて気づいた流域という「龍」の構造
最終日、新潟県糸魚川市へ3人で降りて行きました。ちょうど戸隠連山の北、妙高連山から日本海へと注ぐ川のひとつ、能生川(のうがわ)の河口近くに能生白山神社といって、拝殿の茅葺屋根がとても印象的な神社があります。今回流域を調べていたら戸隠から日本海にかけた一帯に九頭龍信仰のひとつ、信越龍伝承があると知って、おふたりをお誘いして訪ねたんです。

能生白山神社拝殿。入母屋造妻入の見事な茅葺の屋根。

3世紀から奴奈川姫命が祀られた社に、加賀白山権現を開いた僧・泰澄が崇拝し、仏像を安置。11世紀に白山権現から分御霊を受けて合祀された。地元では「白山神社」として親しまれている。

地図手前が北側。日本海からフォッサマグナを富士山方面へと見る。戸隠山から能生白山神社までの流域。信州では戸隠神社を竜頭とする説もある。GoogleEarthより。
この龍伝説では戸隠連山という源流域が「竜尾」、妙高連山が竜の赤腹、そして水を集め日本海へと流れ出る河口部の能生白山神社のあたりが「竜頭」とされています。能生白山神社の地元の方にお聞きしたのですが、拝殿裏の水が湧く岩盤は、戸隠山からひとつの岩体で続いていると言われているそうです。
戸隠・妙高を経て日本海へと注ぐ大きな大きな水の恵みを龍の姿になぞらえたところに、かつての流域への畏怖・畏敬を感じたと同時に、沖縄の御嶽のように、ここ日本海でも海側からマレビトがやってきてお山へと向かっていき、山岳信仰へと結びついていったのではないかと感じました。

戸隠山のところどころの拝所で手をあわせる。左から役行者さん、 戸隠修験を開いたとされる学問行者さん、空海さん。
大山・船通山流域と戸隠・能生白山神社流域を重ねて
戸隠神社は、天岩戸(あまのいわと)神話で、手力男命(たぢからをのみこと)が投げ飛ばした岩戸が落ちたところともいわれています。ただ登拝しながら、“なぜ天岩戸なんだろう”って思っていたんです。ところが日本海で海の水に触れていると、はたと地元の大山・船通山流域とこの流域とを重ね合わせることができたんです。
僕の地元、大山・船通山(せんつうざん)流域には八岐大蛇(やまたのおろち)伝説があります。天照大神(あまてらすおおみかみ)によって高天原(たかまがはら)を追放された須佐之男命(すさのをのみこと)は、出雲国の船通山にたどり着き、そこで櫛名田比売命(くしなだひめ)を助ける代わりに八岐大蛇(九頭竜)を退治します。その時に竜尾から雨叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)(草薙の剣)が出てきました。八岐大蛇は古くから斐伊川(ひいかわ)の氾濫そのものであり、斐伊川源流域である船通山周辺の製鉄(たたら製鉄)の利権や技術を象徴しているといわれています。 この神話は「川の源流(竜尾)の山肌を削り、そこから極上の鉄(砂鉄・鉄鉱石)を掘り当てて、最強の剣(鉄器)を作った」 という歴史的・地質学的メタファー(比喩)です。
一方で戸隠山という源流域(竜尾)は、「岩戸」が手力男命によって投げ飛ばされて落ちた土地。大山・船通山の源流(竜尾)から「最強の剣」が出てきたように、戸隠の源流(竜尾)には「天岩戸」というフォッサマグナから生まれた最強の岩盤が屹立している。 頂に祀られたお不動様の巌窟で、天水一滴が磐座に落ち、節理から浸み入り、川や大地を通って海まで流れていき、人々の暮らしが豊かになる扉が開かれた。 ぽたりと雨水が落ちる岩盤こそが御神体である。その流域の構造を抽象化し、神話のエレメントになっていたと気づいた時、視野がパッと開ける思いでした。(談)
鴉天狗が大天狗へと向かう背中を鏡に、流域を身体化する場を立ち上げます。大山寺観證院山楽荘敷地内の「天狗茶屋」を、「流域哲学道場」として再生するクラウドファンディングを実施中です。

宗門派閥、あらゆる垣根を超えて、本来守っていきたかったもの、継承していきたかったものに光を当てる大原徹の修行も、この哲学道場の営みの一環です。研究員たちの物語を見守っていただけると幸いです。